中小企業診断士第二次試験事例Ⅲ 緊張下で再現性を高める解法

事例Ⅲ表紙 中小企業診断士試験
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本記事では中小企業診断士二次試験事例Ⅲにおいて、緊張状態でも再現性を高める解法を記載しています。実際の再現答案を用いて、設問の解釈、与件文の分析、解答の作成手順を筆者なりの方法で解説いたします。事例Ⅲを苦手とする方はぜひ、ご参考にしてください。

筆者は、予備校の解法をアレンジし、ココスタを利用して再現性の高い解法を見つけました。その結果、父の通夜が行われた日のR5二次試験という非常に緊張した状況でも、事例Ⅲで75点を獲得することができました。今回は、その解法と私の思考パターンについて、実際の試験を振り返りながら説明します。

好き嫌いや、合う合わないがあるので、私の話が全て正しいとは限りませんが、高専卒で一介の工場勤務者であり、経営経験のない私が用いた“持たざる者の弱者の兵法”が少しでも皆様の合格に向けた助けになればと思います。 今回は実際に筆者が高得点を獲得してR5事例Ⅲの再現答案を用いて、解説します!

さあ、さっそくはじめましょう!

事例Ⅲの時間配分と重要性の考え方

中小企業診断士の事例Ⅲを解く際には、もちろん他の事例と同様に効率的な時間配分が成功の鍵となります。私は紆余曲折のあと、以下のように時間配分しました。時間として表のようにしていますが、意識としては表右列にあるように設問の解釈に重きを置き、与件文の分析はほどほどにと考えていました。

手順時間意識
設問の解釈15分50%
与件文の分析15分10%
解答の構成20分20%
解答作成25分20%
見直し5分

ミッション0:生産マップを叩き込め

筆者は事例Ⅲに挑むにあたり、生産のレイヤー構造(マップ)を頭に叩き込みました。マップが身についていると、どのレイヤーで解答すべきか、迷子にならない為です。

事例Ⅲ生産の全体図
事例Ⅲ生産の全体図

ミッション1.設問を徹底的に分析せよ!

正確な解答を導きだすには、出題者の意図を正確にくみ取ることが必要です。筆者は徹底した設問分析で出題者の意図に近づこうとしました。

設問の意図を読み取る

設問文を2回繰り返して丁寧に読み、何が問われているのかを正確に理解します。設問のキーワードに注目し、必要な解答の範囲を明確にします。

設問を以下の項目で分析し、設問の難易度を把握します。

1.設問タイプ
2.マッピング
3.設問の時制
4.制約条件
5.設問の優先順位
タイプ説明難易度
情報整理与件文の情報を整理し、SWOT分析などを行う準備
期待効果施策の結果得られる効果や目的の説明
助言アドバイスを求められた場合の対応

設問の内容から、求められる解答が「生産管理マップ」のどの位置に属すのかを判別します。

3.設問の時制

設問の内容から求められている解答の時制を捉えます。

時制難易度
過去
現在
今後

4.制約条件

設問から読み取れる解答に対する制約条件を抽出します。

5.優先順位付け

全ての設問を分析した後、分析結果から、それぞれの設問の難易度を見極めて、難易度の”低い”順から優先度を高く設定します。

難易度優先度記号
低い高い
中程度中程度
高い低い×

実際の分析結果

R5事例Ⅲの設問2を例にして分析をしてみます。

設問文

C 社の製造部では、コロナ禍で受注量が減少した 2020 年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している。生産面でどのような対応策が必要なのか、100 字以内で述べよ。

分析結果

以下の図は、筆者が実際の試験時に問題用紙の裏面に記入したメモです。

令和5年度事例Ⅲ設問2分析
令和5年度事例Ⅲ設問2分析
  1. 設問のタイプ:「どのような対策が必要か」との問いから、「助言問題」と判断します。
  2. マッピング:「生産面で」と記述があるため、「生産マップ全体」が対象と判断します。
  3. 時制:現状での対策が求められているため、「現在」と判断します。
  4. 制約条件:「増加する受注量の対応に苦慮」との記述から、「生産能力を向上する施策」を解答に組み込む必要があると判断します。
  5. 優先順位:難度が高い「助言問題」ですが、時制は「現在」で、制約条件も明確であるため、難易度は「中程度」と判断し、「△=中程度」の優先順位を設定します。※優先順位は全設問を分析後、設定しています。

ミッション2.解答の入り口、出口、パズルを入れる箱を準備せよ!?

と言われてもなんのことがよくわかりませんよね?

筆者は設問解釈の時点で、ある程度、解答の形と方向性を決めていました。そのために事前に入口と出口、そしてパズルを入れる箱を用意します。そのイメージは以下の図になります。

解答作成までの図解
解答作成までの図解
  1. 入口:解答の書き出しを記入しておきます。こうすることでいざ、解答を作成する際に大事故を防止できます。
  2. パズルの箱:解答の作成に使う与件文中のキーワードをいれておく箱です。キーワードの抜き出し忘れが無いように、生産マップや事前に作っておいた解答の”型”を書き出しておきます。
  3. 出口:いわゆる”効果”を書き出しておきます。設問から求められている解答の方向性を読み取り、どのような効果が期待されているかを事前に考えておきます。

解答作成フェーズでは、この入口と出口がシームレスでつながる様に、箱の中のキーワードを組み替えて、施策を作り上げます。

実際の入り口・出口メモ

R5事例Ⅲの設問2を実際に解いた際のメモは以下になります。生産工程全体が対象だったので、パズルの箱は生産マップ全体としています。

令和5年度事例Ⅲ設問2の分析結果
令和5年度事例Ⅲ設問2の分析結果

ミッション3.設問の難易度を見究め、解答の優先順位をつけよ!

全ての設問を解釈したのち、各設問を相対的に比較して解答の優先順位を付けます。

各設問の難易度は、設問分析結果から、設問のタイプ、生産マップの位置、時制、制約条件から判断します。次に各設問を相対的に比較して、難易度の低い問題から優先的に回答する様に優先順位を付けます。

難易度優先順位記号

二次試験ではライバルが確実に点を取るであろう設問で確実に加点することが合格への早道です。間違っても難問から手を付けて、時間が足りなくなった…ということが無い様にマネジメントしましょう!

設問分析のまとめ

以下がR5事例Ⅲを実際に解いた際のメモになります。

R5事例Ⅲ設問1

強みの二つ書き忘れないために、①、②の箱を準備しています。SWOTや強み/弱みは解答難易度が低く、解答優先度は最も高くなります。

令和5年度事例Ⅲ設問1の設問解釈
令和5年度事例Ⅲ設問1の設問解釈

R5事例Ⅲ設問2

  1. 生産力向上を事例企業の戦略と判断して、そちらの方向で解答を作成すると判断。
  2. 対応策を求められているので、入り口は”対応策は”とした。
  3. 設問の対象が生産面全体なので、箱として生産マップを準備。
  4. 設問の分析より出口(効果)は生産能力向上、生産効率改善
  5. 設問タイプ:助言は難易度高めなので、優先度は中とした。
令和5年度事例Ⅲ設問2の設問解釈
令和5年度事例Ⅲ設問2の設問解釈

R5事例Ⅲ設問3

  • 収益性向上が求められているが付加価値向上策はとられているため、コスト削減の方向性で解答を組み立てると判断。
  • 対応策を求められているので、入り口は”対応策は”とした。
  • 生産面での対応が必要と判断し、箱として生産マップを準備。
  • 設問分析より出口(効果)は生産コスト削減とした。
  • コスト削減の課題は与件文からネタを見つけやすいので難易度は低いと判断し、優先度は高とした。
令和5年度事例Ⅲ設問3の設問解釈
令和5年度事例Ⅲ設問3の設問解釈

R5事例Ⅲ設問4

  • 設問文に複数の条件があるため、抜き出しておく。
  • 企画開発について問われているので、入り口は”企画開発”とした。
  • 今後の戦略の際は、図のような”型”で解答を作ると決めている。
  • 今後の戦略の際は、図のような”型”で解答を作ると決めている。
  • 今後の戦略問題では”型”に従って解答すると決めていたので難易度は低いとして優先度を高く設定。
令和5年度事例Ⅲ設問4の設問解釈
令和5年度事例Ⅲ設問4の設問解釈

R5事例Ⅲ設問5

設問を読んだ段階で全く回答の方向性とイメージがわからず。難易度が非常に高いと判断して、優先順位を最も低くした。

令和5年度事例Ⅲ設問5の設問解釈
令和5年度事例Ⅲ設問5の設問解釈

ミッション4.与件文を分析せよ

筆者流では、与件文は深くまで読み込みません。「与件文を理解しないで、適切な助言なんてできない!」その通りでございます。しかし、筆者は「極限の緊張状態の中、10分やそこらで会社の置かれている状況を理解することなどできない」と割り切りました。与件文が社長へのインタビューだと考えてみてください。どうでしょう?10分ほど社長から話を聞いたからってその企業を理解することは難しいでしょう。中には1回与件文を読んだだけで理解できる人もいるかもしれませんが、そんな人はかなりレアな方です。我々凡人は、短時間の中で社長の話に現れるキーワードを何とか拾って組み合わせ、助言する必要があるのです。

筆者流の与件文分析方法は以下の通りです。

SWOT分析をする。

与件文を読み込むのではなく、与件文中のキーワードからSWOT分析をしていきます。
SWOT分析とは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字をとった、企業やプロジェクトの戦略を立てるための分析手法です。
地方のレストランを例としたSWOT分析を以下に示します。

強み(Strengths)弱み(Weaknesses)
地元の食材を使用して、新鮮で健康的なメニューを提供高い運営コスト(賃料、人件費、食材コストなど)
経験豊富なシェフとスタッフ新規開店であるため、ブランド認知度が低い
独自のレシピや特色ある料理競合他店に比べてメニューが限られている
機会(Opportunities)脅威(Threats)
地元の食材を活用した地産地消のトレンド競合他店との激しい競争
ヘルシーでオーガニックな食事を求める顧客の増加経済状況の変動による客数の減少
オンラインでの注文やデリバリーサービスの需要増食材価格の変動や供給不安

このようなSWOTを与件文上のキーワードをもとに実施します。筆者は3色ペンを駆使して、SWOT分析を行っていました。

具体的には以下の通りです。

強み赤ペンで囲む
弱み青ペンで囲む
機会赤ペンで下線を引く
脅威青ペンで下線を引く

段落と設問を紐づける。

SWOT分析と並行して、与件文の各段落と設問文を紐づけていきます。この作業を行う意味は、解答に必要なキーワードの探索範囲を狭めて、解答の作成時間を短縮することにあります。設問1つ1つに対していちいち与件文全体を見渡していては時間がいくらあっても足りませんので、探索範囲を事前に絞り込んでおきます。

具体的には段落内にあるキーワードを見て、関連しそうな設問の番号を書き込んでおきます。段落に関連する設問が複数になることもあります。

実際にR5年事例Ⅲの与件文でSWOT分析と設問との紐づけを行ったものを以下に示します。

令和5年度事例Ⅲ与件文の分析
令和5年度事例Ⅲ与件文の分析
令和5年度事例Ⅲ与件文の分析2
令和5年度事例Ⅲ与件文の分析2
令和5年度事例Ⅲ与件文の分析3
令和5年度事例Ⅲ与件文の分析3

ミッション5.キーワードを収集せよ

次に行うのは、与件文から各設問に関係するキーワードを収集する事です。

収集は優先順位の高い設問から行います。設問と紐づいている段落から、設問分析で作った”キーワードの箱”に合致するキーワードを抜き出します。この時点でキーワードが十分集まらなければ、紐づけた段落以外に探索範囲を拡大します。キーワードを抜き出した例がこちらです。

令和5年度事例Ⅲキーワード収集
令和5年度事例Ⅲキーワード収集

このキーワード収集を優先順位が高い設問から順に行います。

ミッション6.解答を作成せよ

解答は、メモに収集したキーワードと入口(書き出し)、出口(効果)を用いて構成します。入口と出口に合致するようにキーワードを組み替えたり、表現を変えたりしながら、解答を組み立てていきます。
筆者は初期の頃、メモに解答の構成を下書きしてから、清書していましたが、解答構成のプロセスを繰り返し練習するうち、頭の中でキーワードを組み立てることができるようになり、下書きなしで清書ができる様になりました。


以下に令和5年度の事例Ⅲにおける、実際の試験で筆者がメモした内容と再現答案を示します。
試験から半年以上経過して初めて、再現答案を作成しましたが、前述したメソッドを使うことで、再現度は高いと考えられます。(設問5以外は…)

R5事例Ⅲ設問1

令和5年度事例Ⅲ設問1再現答案
令和5年度事例Ⅲ設問1再現答案

R5事例Ⅲ設問2

令和5年度事例Ⅲ設問2再現答案
令和5年度事例Ⅲ設問2再現答案

R5事例Ⅲ設問3

令和5年度事例Ⅲ設問3再現答案
令和5年度事例Ⅲ設問3再現答案

R5事例Ⅲ設問4

令和5年度事例Ⅲ設問4再現答案
令和5年度事例Ⅲ設問4再現答案

R5事例Ⅲ設問5(再現度が低いので参考です)

令和5年度事例Ⅲ設問5再現答案
令和5年度事例Ⅲ設問5再現答案

最後に

今回は筆者流の事例Ⅲ解法設問分析編を説明しましたが、いかがでしたでしょうか?

好き嫌いや、合う合わないがあるので、この方法が全て正しいとは限りませんが、少しでも皆様の合格に向けた助けになればと思います。

それでは、二次試験受験に向けて、もうひと踏ん張り、頑張っていきましょう